「堀川シャチ写 真展レポート」 2000年6月 安井幸代  

 今年2月21日、名古屋港にシャチがやってきたことを覚えていますか?約2mもの 凛々しい背びれを持つ、体長約7.5m、年齢20歳前後(注1)の立派なオスでし た。22日には、名古屋市内を流れる堀川を約3km遡り、宮の渡し公園(熱田区) 付近に1泊。23日には朝からシャチ救出作戦(注2)が始まり、午後1時頃、シャチは堀川水門を越えて海へ戻りました。
  その後、26日には、伊勢湾で弟らしきシャ チと合流したと報道されました。 堀川をさまよった2日間に、シャチの姿を一目見ようと約2000人が川岸へと詰め掛けました。その時人々は何を感じたのでしょうか?

  名古屋港水族館シャチ飼育計画について考える集会を開こうと準備を進めていたとこ ろ、偶然にもこの事件が起きました。そして、シャチ飼育計画の現状とシャチという生物について、広く人々に知ってもらうことを目的に「堀川シャチ写 真展」を企画しました。
 6月2〜6日、15〜27日、名古屋市内のメルヘンハウスギャラリーにて「シャチからのメッセージ」と題した写 真展を開催。愛知県内のアマチュアカメラマンから寄せられた、堀川シャチの写 真、ビデオ、スケッチやメッセージなど、作品約50点を展示しました。なかなかの力作揃いで、中でも潮を吹く瞬間やテール・スラッピング (注3)の様子を捉えた写真は迫力満点! また、シャチを心配そうに見守る人々の 表情など、堀川の状況がよく伝わってくるものも多数ありました。
  そのほか、シャチを守りたい一心で水温4℃の堀川に飛び込んだ海洋生物学者、林正道さんが描いたスケッチの原画や、カナダとノルウェーで撮影された野生のシャチの写 真なども所狭しと並びました。さらに後半では、三河湾の青潮の現状を紹介した り、コーキー(注4)解放運動のための旗を描くスペースなどを設けるなどして、内容も充実させることができました。

  この期間中、約300人もの人々が会場を訪れ、中には当時の状況を興奮気味に語ってくれる方もいました。シャチが堀川へ迷い込んだ驚きと、無事に海へ帰っていった 感動が再び蘇り、それを皆で共有しました。そして「何とかしてシャチを救いたい!」とあのとき誰もが強く願っていたという事実を再確認できたことは大きな収穫でした。 また、この写真展はマスコミに大きく取り上げられました。写真募集の段階で、新聞 4社(朝日/毎日/中日/読売)に掲載され、オープニングの際には、テレビ3社を 含む約20人の報道関係者から取材を受けました。シャチ飼育問題を考えている市民の存在をアピールするという点でも、かなりの成果 を得る事ができたのではないで しょうか。 しかし、名古屋港水族館でシャチ飼育計画があることや、シャチという生物について、まだまだ知られていないということも痛感せざるをえませんでした。

  堀川シャチは決してメッセージを携えてきたわけではありません。しかし、もう一度 立ち止まって考えるチャンスをくれたことは確かです。私達一人一人が、この事件をどのように受けとめ、どのように行動するかが大切です。 あのシャチのことをそしてあのシャチを伊勢湾へと帰してあげたいと感じた自然な気持ちをどうか忘れないでいてください。 そして、今、新たに起ころうとしている事件を傍観せず、市民・県民の立場からさら に議論を盛り上げていきましょう!


注1) 水族館関係者らによる発表では、体長約5mの5〜6歳のオスということでしたが、初歩的なミスです。
注2 愛知県、名古屋港管理組合、名古屋港水族館、南知多ビーチランド関係者ら が5隻の船を出動させ、水中に入れた金属パイプをたたきながらシャチを追いたてる 作戦。この方法は、イルカなどの追い込み漁で使われます。
注3
尾びれで水面をたたく動作のこと。
注4
1969年に捕獲され、現在もカリフォルニアのシーワールドで飼育されて いるシャチの名前。ポール・スポング博士を中心に、世界中で解放運動が展開されています。

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